『終活中毒』

 ーEND OF LIFE PLANNING ADDICTSー

 (著者 秋吉理香子 発行所 実業之日本社)

 初めに題名を見た時、終活ブームに警鐘を鳴

 らす本かと思いました。行き過ぎた終活に釘

 をさすのかと。(失礼いたしました。)

 4人の終活を描いた小説です。

  SDGsな終活 六本木のタワマンの最上

 階に住む、45歳独身女性。余命宣告を受けて

 いる。病院職員の男が目をつけ、財産目当て

 に結婚を迫る。

  最後の終活 長い間音信不通だった息子が

 突然帰って来た。しかし息子ではなく、高齢

 者をねらった特殊詐欺だった。男性は息子と

 信じて、キャッシュカードや金銭、金目の物

 を奪われてしまう。

  小説家の終活 ライバルだった小説家が亡

 くなり、ワープロを形見分けとして受け取る。

 その中に入っていたフロッピーディスクから

 未発表の原稿を見つける。かつてアイディア

 を奪われた仕返しに、自分の作品として出版

 社に売り込む。しかし発売直前に罪悪感から

 正直に告白して取り下げてもらう。

  お笑いの死神 癌に冒され余命数か月と宣

 告されたピンのお笑い芸人。最後にひと花咲

 かせたい、とP1グランプリにエントリーする。

 会場に全身黒ずくめの男性が現れるが全く笑

 おうとしない。1回戦、2回戦と勝ち進んでい

 き、なんとか笑わせようと頑張る。決勝戦で

 は涙を流していたが、一転して笑った。その

 男性は生き別れになった芸人の父親であり、

   見守られながら命をたった。

 

 この中で一番おもしろいと思ったのは、最初

 の「SDGsな終活」です。

 以下、ネタバレお許しください。

余命わずかな女性を見つけて、結婚し、看取り、

遺産をいただくのが僕の本業だ。病院で働くの

は、ターゲットを探すため。条件は三つ。余命

宣告を受けていること。天涯孤独。そして財産

があるか高額な死亡保険をかけていること。
(P15)

 
 この男はかつて二人の女性と結婚をして、死

 亡後に遺産を相続した。三人目の女性もぶり

 っこ丸出しで、男も女もいけ好かない。

人の余命につけこむなんて下衆だという奴もい

るかもしれないが、僕はそうは思わない。高齢

男性に取り入って貢がせ、最後には毒殺して遺

産をせしめた女性が世間を騒がせたが、もとも

と余命のわかっている人だけを選び、決して手

を下さない僕は紳士的で人道的だと思う。

要は私設ホスピスのようなものだ。または残さ

れた人生に徹底的に寄り添うことを専門とした

ホストだ。ホストに一晩で百万二百万とつぎ込

む人もいる。それなら、一日二十四時間、何か

月も一緒に過ごすのなら、がっぽりいただいた

っていいはずだ。遺産ないし保険金は、その対

価なのだ。悪いことなんかじゃない。実際、こ

れまでの女性たちは僕に感謝して旅立っていっ

た。ギブアンドテイクのビジネスだ。

僕はこの「ビジネス」を絶対的に正当だと自信

を持っている。罪悪感などはない。持つ必要は

ない。(P17-18)

 

 「ビジネス」ですって。そう来るか。

 結婚して郊外に三百坪の土地と家を買い、移

 り住んだのだが、それが幸いして医者から数値

 が安定していると言われる。男の思惑とはかけ

 離れていく。こんなはずじゃなかった。あとど

 れくらい我慢しなくちゃならないんだ?

 そして殺してやろうと思い始める。自殺に見せ

 かける方法、食べ物や飲み物に毒物を入れる方

 法など。そして毒性のあるイヌサフランを使っ

 て料理を作るのだが、口に合わないと言って吐

 き出す。その料理を自分が食べるわけにはいか

 ないのでこっそり庭に捨てる。それを食べたハ

 クビシンが庭で死んでいるのを発見した。(実は

 この時にあやしいと気づかれてしまうのだが)

 その後、床にワックスをかけてすべってころぶ

 よう仕向けたり、オイルを風呂場のタイルに撒

 いたり、動線上につまずきやすい物を置いたり、

 階段に石鹸を塗り付けておいたりいろいろ細工

 をしたが失敗に終わる。そのうち女がアメリカ

 で有効な治療があることを聞き、それを受ける

 ために渡航するという計画を立てた。男はあせ

 る。高額な治療などやられては取り分が減って

 しまう。もう事故を装う方法しかないと、風呂

 に入っている時、溺死させることを考える。前

 途を祝してヴィンテージもののワインをしこた

 ま飲ませて風呂に入るよう仕向ける。一緒に入

 ると見せかけて頭をつかんだ瞬間、隠し持って

 いたナイフで腹を刺される。その後、庭に穴を

 掘り埋められウッドチップをかけられる。

 

「遺体を1メートルくらいの土中に埋めて、ウッド

チップをかけて放っておけば、骨も分解されて堆

肥になるんだって」(P60)

 

「自然って偉大で素晴らしいよね。恭ちゃんみた

いな悪い人間でも、分解して浄化して豊かな土に

変えてくれる。恭ちゃんは真美ちゃんのおかげで、

地球の養分になって、永久にリサイクルされるん

だよ!」(P61)

 

 女は輝かしい笑顔で土を埋めていく。

 やった!! 下衆やろう、堆肥にされる。

 

 年老いた男性に若い女性が、財産目当てに近づ

 くのはよくある話ですが、逆もまた有りなのか

 と思わせるような話でした。

 女性のソリタリーのみなさん、こんな下衆に捕

 まらないよう気をつけてくださいね。

 ソリタリーとしての矜持を忘れずに!!